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手塚治虫の豚ピョーン

大久保八億のブログ

御殿

ピカッ!!!!!!

 
目の前が閃光で包まれ、何も見えなくなる。
 
明石家さんまは一瞬その細い目を反射的に閉じたが、すぐさま何事もなかったように目を開きカメラマンの方向を睨みつけた。1本目の収録のときも気になっていたのだがカメラマンのつけている腕時計が照明を反射しているのだ、収録後注意したはずだが直されていない。自分の名が冠されているこのさんま御殿にて狼藉を働くものは許さない。プロとしての怒りのこもったピシリと重い視線を向ける。光を浴びてから睨むまでこの間僅か0.5秒。どんなアクシデントにも生理的瞬発力と40年間培った舞台テレビの経験則から瞬時に正解となる行動に移す。天才と呼ばれた男のプライドがなしうる業だった。
 
だが、同時に天才は1秒前とスタジオの何かが違うことにも気づいた。景色が歪んでいる?もしや先ほどの閃光はめまいの前兆だったのか?アカン、とりあえず場を乱すわけにはいかない、今はワガママ女SPのトークをバービーが話している、集中せねば、と冷静に傍に置いたテーブルに手を伸ばそうとするが指先がピクリとも動かない。一体何がどうなっているのだ?さんまはパニックに陥った。
 
「ほんならハジメのことはどう思っとんねん!?」
 
俺が勝手にしゃべりだした。いや、俺は喋っていない。今気づいたのだが俺は口を開けたまま表情を変えることもできずにいる。とりあえず状況を生理するためにスタッフゾーンの足元にあるモニターに目を移すと、いつも通りの風景。ニューロンが疑問符で埋め尽くされるとともに、空が晴れあがるかのごとくゆっくりとゆっくりと状況を理解した。
 
俺はゴジ棒になっていた。(注・踊る!さんま御殿にてさんまが持っているゴジラにさんまが食われてる指し棒のこと)
 
明石家さんまは全身からアドレナリンが噴出したのを感じた。中村玉緒内山信二と対面したときにしか感じなかった高揚感。戸惑い、恐怖など凡人然としたものではなく"ネタ"になる!という天才ならではの高揚であった。今まで人類が誰も成しえなかったエピソードトークをすることができる!聖書の神様がノアに方舟を造らせ、イスラムの神様がムハンマドヒジュラの使命を与えたのと同じく、笑いの神様がいるとしたらこの明石家さんまを一粒選していただき、最後の仕事が与えられたような気がした。、円形闘技場で虎と向き合うような心持ちへとなり、どのように現実味をもってこの珍奇な出来事にオチをつけるべきか思考を巡らせていた。
 
このとき、天才が一つ誤算をしていた。もうひとりの明石家さんまのゲストトークが終盤に差し掛かっていたということでを見逃していたのである。
 
「そうか〜、でもそういうところ含めてハジメを許してんねやろ?」
「いえ、別に…」
「ホヮ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜笑笑笑」
 
ガンガンガン!!!!!!!!!!!!!!!!!
 
ゴジ棒となった男は最初何が起きたのか判別ができず、3回目の殴打で気がついた。明石家さんまがゴジ棒をテーブルに打ち付ける。何度も何度も。笑うだけでは発散できなかったエネルギーをソフビの脳に直接ダメージを叩き込まれた。痛みより先に嘔吐をイメージするほどのショックに意識も虚ろに目を上げると、明石家さんまは俺のことなど意にも解せず、ピンクレディーの娘とのトークを始めていた。
 
ピンクレディーの娘「…そしたらぁ〜ママの服みたいなピッカピカの服を着た男しかこなかったんですよ〜」
「ホヮ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜笑笑笑」
 
ガンガンガン!!!!!!!!!!!!!!!!!
 
松本明子「でそのまま「おまんこ」って言っちゃって〜。放送後、鶴光さんが親指を立ててくれました。」
「ホヮ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜笑笑笑」
 
ガンガンガン!!!!!!!!!!!!!!!!!
 
紫吹淳助六弁当なんか食いたくない!って言ってその上にラメでテカテカのうんちしました。」
「ホヮ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜笑笑笑」
 
ガンガンガン!!!!!!!!!!!!!!!!!
 
よく知らないダンサー「私、招待された結婚式で自前の歌舞伎揚げしか食べませんでした。」
「ホヮ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜笑笑笑」
 
ガンガンガン!!!!!!!!!!!!!!!!!
 
あれから30分、おおよそ100回以上の殴打に、ゴジ棒となった男は三半規管を寒天のようにグズグズにされてしまった。しかし歯をくいしばることも激しい嗚咽感に胃液を吐き出すこともできない。先ほどの高揚どこへやら、自分自身が自分自身の手によっていたぶられ、この我が城さんま御殿で破壊されてゆく恐怖を老いらくの体に初めて刻み込むこととなった。心臓はクシャクシャの新聞紙のようになり、脳裏にうかぶのは何故かもう二度とは足を踏み入れることのできないであろうホンマでっか!?TVのスタジオ、そして門倉教授の顔であった。
 
「カット!お疲れさまでした〜〜!」
 
ディレクターの声が御殿に響き、収録が終わる。ゴジ棒となった男は明石家さんまが自らを脇机の上に置き、廊下を先導して歩いてゆく背中を黙って見ていた。明石家さんまが一瞬振り返り、目があった気がした。しかしそれも気のせいなんだろう。少なくとも明石家さんまだった頃の俺はゴジ棒なんかを一度たりとも気にしたことはない。今のあいつの、明石家さんまの容れ物の中身は一体誰なんだろう?もともとゴジ棒の中身だったやつ?それとも精神が二つに分裂してたまたま片方の俺が近くのゴジ棒という容れ物に入っていっただけ?いやはや俺はもともとゴジ棒で気が狂い、自分のことを明石家さんまと勘違いしている可能性だってある。一体どれが本当の俺かわからなくなっていったが、幸い次の収録の2週間後まで俺は薄暗い倉庫に閉じ込められる、普段忙殺されている時に比べたら掃いて捨てるほど時間はある。ようやく寝顔を人に見せずに考え続けることができたんだ、考えよう。痛覚により感覚はあることが分かったがゴジ棒としての俺は腹が空くのかな?ゴジ棒に死はあるのかな?もう一度テレビの前で何千万人を笑わせることはできるかな?明石家さんまは死んでも、俺の精神は置いてきぼりになるのかな?この状況に陥っているのは世界で俺だけなのかな?スタッフにも後輩にもテレビの前にもこの状況は、伝わらない、伝えることができないから。だんだんスタジオからスタッフが消えていくにしたがい、また30分前の、近づいてくる痛みとは違う恐怖が胸にシュルリラシュルリと入ってきた。カメラが俺の前に立ち番組最後のカットを撮っている。
 
助けてくれ助けてくれと数珠を捻るような気持ちでカメラの奥に視線を送ったが、そこにはいつもの笑顔のゴジ棒が横たわっているだけであった。

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